嫁ぐ日、それは「秋桜」の歌詞のまま、今も私の中にある。
結納を交わし、結婚式までの限られた時を過ごす母と娘。
座敷の床の間に飾られた、豪華な水引きの品々。
嫁ぐ日の嫁入り道具はタンスに鏡台、寝具、着物等々。
そのような結婚までのスタイルや形式が、今、どれだけ残っているのだろう。
ライフスタイルや生活様式が変わり、人の意識もどんどん変化しているからか、結婚式さえ挙げないカップルも多いと聞く。
それは個々の事情だったり、価値観なのだからもちろん自由でいいのだろう。
でも私は、できる限り仰々しく娘にしてあげたいと思っている。
夏の盛りの頃に娘と見に行った着物が、ようやく仕立て上がったと連絡をいただいた。
それはライムグリーンで、優しいトーンの訪問着。
「着物なんていらないよ」と言いながらも、あれこれ選びながら鏡を覗く娘のその表情は華やいでいた。
そう、30年前の母と私のように。
そんなふうに、着物選びは不思議なくらい母娘の心を寄り添わせてくれる。
この着物を、娘はこの先何度着てくれるだろう?
たとえ1度きりでも、構わないと思っている。
勝手な自己満足に過ぎなくても、嫁ぐ娘に、と誂えてあげたかったのだから。
この着物を広げるたびに、選んだ時のことを、交わした言葉を、ふと思い起こしてくれたならそれだけで十分。
30年前の両親の思いを、今度は私が娘へとつなぐ。
嫁入り支度の着物とは、そんな思いのバトンなのかもしれない。
文・写真 堀内利子(ハーバルセラピスト)
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