成人式の前撮りで、カメラを向けられポーズをとる娘のはにかんだ笑顔。
その瞬間ごと、まぶしいほどの華やぎがこぼれて、白い振袖の衣擦れの音が静かに響く。
それは30年前にも私の「20歳」を彩ってくれた振袖。
母と二人の京都旅行で、鮮やかな手描き京友禅の振袖を選んだ。そんな思い出の詰まった振袖を、最後に着たのは一体いつだったのだろう。
それから長い長い眠りの後で、こうして今、何のブランクも感じさせずに、娘の細い体を優しく包み込んでくれる振袖との再会に胸が詰まった。
横にいた母も、たぶん同じような思いで孫娘を見つめていた事だろう。
綸子のしなやかさの向こうに、娘の成長と自分自身の歩んできた時間が重なる。
かつて母と私が、ぶつかり合ったり解け合ったりしながら歩んできた道のりと同じように。
そう、私の大好きなこの振袖には「母」が宿っている。
一枚の振袖が母娘の絆であり、脈々と続く生命のバトンを繋ぐように伝承していきたい。
ただあでやかに装うだけではなく、決して流行に流されることなく、時に襟をただし、背筋をすっと伸ばし毅然と生きてこそ美しい女性の姿を、この振袖がきっと教えてくれるはず。
心からそう思える。いつの日か娘が、またその娘に、この振袖を伝えてくれてもくれなくても、娘にこの振袖を託そうと思っている。
そんなことを思いながら、振袖の横たわるたとう紙の紐を静かに結んだ。
文・写真 写真 堀内利子(ハーバルセラピスト)